新しい家のカタチ
2020年正月、大和ハウスの芳井敬一社長は、日本経済新聞に一面広告を打ってこう訴えた。
<高齢化社会を迎え、家を長く大切にしていきたいという需要は、これからもっと高まっていくことでしょう。
そうした「ずっと住みたくなる家」にしていくためには、様々な工夫やメンテナンスも必要です。
どうしたら自分の家を育んでいくことができるのか。どんな家なら住み続けたいと思うのか。ぜひとも皆さんのアイデアやお考えをお寄せください。>
「スマートハウス」も「ゼロ・エネルギー・ハウス」も「IoT住宅」も、すっかりコモディティー(当たり前)化してしまって、量産住宅のメーカーたちは海外に進出するか、「インスタ映え」する写真を競い合うかで、これからの家づくりのコンセプトが見当たらなくなってしまったようだ。
広告の冒頭に「あたらしい時代です」とある。「長持ちする家」は当然として、これからは「ずっと住みたくなる家」を造りたい、ついては、みなさんのアイデアや考えを募ります、と大手ハウスメーカーとして極めて異例な内容であり、これは2020年代の住宅市場の変化を予感させる広告である。
ここまでは、2020年1月6日、まだ新型コロナウイルスを知らないときに書いた。
2019年9月、私は2020年を見据えて造り手たちは住宅に求める本当の価値が分からなくなっていることについて警鐘を鳴らすべく「家に何を求めるのか」を出版した。住宅の一番大切な価値は住み心地であること、すなわち「『いい家』が欲しい。」の神髄を再確認するための本である。
そこにコロナウイルス禍が降りかかってきた。
我ながら、そのタイミングに驚いた。厄災に見舞われなくても、わが国の家づくりは「新しい家のカタチ」を見出さざるを得なかったからである。
その後、日を追って感染拡大が騒がれるようになった。
3月半ばを過ぎると住宅業界も対策を迫られ、4月に入って「緊急事態宣言」を受け、住宅展示場は封鎖され、大和ハウスは営業所を閉鎖した。
大手ハウスメーカーはネット広告を増やし、「家にいながら家づくり」、つまり、リモート営業を本格化している。「おうちで家づくり」、「オンライン設計相談」、Webカタログなどを見ると、オンライン営業が「新常態」になったかのような印象を受ける。中には、VRゴーグルをプレゼントして「自宅で体感、バーチャルモデルハウス」と訴えるメーカーもあるようだ。
国は、「新しい日常」・「新しい生活様式」を描き、国民に対応を求めている。コロナ禍は、営業にも、家づくりそのものにも新たな価値観(新ノーマル)の構築を迫っている。
それが「新しい家のカタチ」であるとすれば、芳井社長でなくても誰もが知りたいはずだ。
しかしながら、6月29日現在、「新しい家のカタチ」は見えてきていない。
「家に何を求めるのか」が定かではないのだ。
「震度7に60回耐える家」・「ゼロ・エネルギー・ハウス」・「スマートシティ」・「テレワークがしやすい家」・「IoT次世代住宅」などは、すでに提案済みの「見せて・聞かせる」ものであり、オンライン営業に乗る家づくりである。
それらは住宅のいちばん大切な価値、すなわち住み心地を二の次にしている。
「家に何を求めるのか」のキャッチコピーを「新築 思い立ったらまず読む本」としたのは、みなさんにそこに気付いて欲しいからである。
家づくりは、見て聞いて比較するだけではなく、感じて納得すことが大事だ。「感じて建てる家」を知ることは、あなたに計り知れない利益をもたらす。なぜなら、住み心地の質には「とても良い」「まあまあ」「悪い」があって、健康維持・増進に役立ち、住む楽しみが得られるのは「とても良い」場合だけなのだから。
そのための絶対条件は、空気が気持ち良いことだ。
だから、住み心地は理屈や理論や数値ではなく、言い換えれば「見て、聞いて」ではなく、空気を吸って心身で、つまり「感じて」納得するものである。
2020年6月28日、積水ハウスは新聞一面広告で、「新しい日々へ」というタイトルのこんなメッセージを発信していた。
「考えたこと 気づいたことがある テレワークや ステイホームの日々に」(中略)こんな場所は 世界に二つとない こんな不思議な 幸福な場所はほかにない」と。
だが、「涼温な家」に住む人たちは、「こんな不思議な」とは思わないだろう。この本を読み、科学的・合理的に納得し、肌で確認した家づくりの成果なのだから。
コロナ禍で外出自粛を求められていた時に、「涼温な家」に住む主婦にお尋ねしたところ、皆さんが異口同音に「家にいるのが一番楽しいです」答えられた。
「空気が気持ち良い」つまり「空気」に安心し、暮らしを楽しんでいたのである。「家にいるときです。一番幸せに感じるのは!」と言ってもらえる家づくり、それこそが「新しい家のカタチ」であると私は確信している。
テレビで「エアコン利用時の窓開け換気の必要性」についての解説を見るたびに、「換気が主、冷暖は従」という「涼温な家」の先見性、ありがたさを痛感したという意見がお客様から数多く寄せられている。
- 新しい家のカタチ
- 「丁寧な仕事に敬意を払う文化」を破壊する人たち
- 純米酒と父と母
- 心の涙で泣く人間
- からだで感じ、からだで考えるならば
- ロボットが造る家
- 妻が喜ぶ家を
- 自足できる家
- 工務店にしか造れない家
- 91歳で建て替える
- ある精神科医の話
- 住み心地は百薬の長
- 色のある屋根
- 「明るくて広い部屋」
- 住み心地の保証
- 税金は軽くなるとしても
- 松井 修三 プロフィール
- 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
- 1961年中央大学法律学科卒。
- 1972年マツミハウジング株式会社創業。
- 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
- 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
- 現在マツミハウジング(株)相談役
- 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)