心の涙で泣く人間
今日の日経夕刊「人間発見」は、名古屋グランパスゼネラルマネージャーの久米一正さんを取り上げている。
久米さんは言う。
<選手との個人面接で、「プロ選手とは何か」と問うと、「プレーでお金を稼いでいる選手」とか、「高い技術でお客さんを喜ばせる選手」という答えが返ってきます。
私は「違うね」と言うんです。愚痴をこぼさない、言いわけをしないのがプロだと思っています。選手というのは、言い訳を探す動物なんです。うまくいかないと、「芝の状態が悪かったから」とか、「ホテルがうるさかったから」とか、「移動のバスが遅れたから」とか、とにかく言いわけを探し出します。
だから、クラブのフロントの仕事は選手に言いわけをさせないことだと考えています。スタジアムへのバスは交通事情を細かく読んで早めに出します。食事の量や質やタイミングについても神経を使います。環境をすべて整えて、「これで負けたら、君たちの責任だよ」という状態にします。>
私も私的生活では「言いわけを探す動物」に分類されると思っている。「よく眠れなかった」ことに関する理由を並べるのは、得意中の得意である。だから、どこでも眠れるという人に出会うと、もうそれだけで敵わないと思ってしまう。
だけど、仕事となったら言いわけは一切しない。
家づくりに携わる者が言いわけしたのでは、お客様は当然として自分が気持ち悪くてならないからだ。
私が就職するに際して肝に銘じた言葉である。
「プロとは、いやなことをすすんでするから、好きなことができる人。アマとは、嫌なことを避けるから、好きなことができない人」。
幸いと言うべきか、社員たちから言いわけを聞かされることはめったにない。嫌なことを避ける様子もない。その点では、みんなプロと言える。
さて、久米さんはこんなことも言われている。
<わかりにくいかもしれませんが、選手には心の涙で泣ける人間になってもらいたいと思っています。うれしいときも、悲しいときも、心の涙で泣く人間に。それには、すべてにおいて本気で取り組まなくてはなりません。本気になれる人は心で泣ける。本気にならないと本物のパワーは出ません。>
すばらしい言葉だと思う。
いいなぁ、「心の涙で泣く人間」。
家づくりで言えば、「思いやり」ではなかろうか。
家づくりのプロとは、思いやりを大切にする感性豊な人、とも言えよう。
- 新しい家のカタチ
- 「丁寧な仕事に敬意を払う文化」を破壊する人たち
- 純米酒と父と母
- 心の涙で泣く人間
- からだで感じ、からだで考えるならば
- ロボットが造る家
- 妻が喜ぶ家を
- 自足できる家
- 工務店にしか造れない家
- 91歳で建て替える
- ある精神科医の話
- 住み心地は百薬の長
- 色のある屋根
- 「明るくて広い部屋」
- 住み心地の保証
- 税金は軽くなるとしても
- 松井 修三 プロフィール
- 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
- 1961年中央大学法律学科卒。
- 1972年マツミハウジング株式会社創業。
- 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
- 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
- 現在マツミハウジング(株)相談役
- 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)