「それでもやる?軒ゼロ住宅」
住宅の3大災厄は、雨漏り・内部結露・シロアリ被害だ。
工務店主は、それらを絶対に起こしてはならないと肝に銘じて家づくりをしている。
いずれも構造の耐力を奪い、住宅の寿命を短くするだけでなく、住む人の健康と命さえ危うくしかねないからだ。
「いい家」とは、いつまでもそれらの心配がなく、住み心地がいい家のことである。
「安全なくして、安心なく、安心なくしては住み心地もない」。
ところが3大災厄は、いまも増え続けている。
雨漏り・内部結露は、運不運ではなく、科学的な知識、というよりも常識の無さがもとで発生するのは明らかだ。そもそも、この国で、軒の出がゼロというような家を造るのは非常識なのだ。どんなに格好よく見えるとしても造るべきではない。
遅かれ早かれ、建主は被害を目の当たりにしてショックを受け、大損害を被る確率が極めて高いのだから。
日経ホームビルダー12月号は、「それでもやる?軒ゼロ住宅」を特集している。
「雨漏り発生リスクは通常の約5倍!」と警告。
「最新の調査結果から、軒ゼロ箇所では雨漏り事故が非常に多いことが分かってきた。見た目は格好よくても、施工の難易度は高く、維持管理費もかかる。それでも軒ゼロをやるなら、雨漏りリスクと費用負担増を建て主に丁寧に説明したうえで、雨漏りを防ぐ周到な準備が不可欠だ」と説いている。
この文章からは明確ではないが、「それでもやる?」との問いかけは、造り手だけではなく住まい手にも発せられていると思う。
格好のよさを求める客に、「いまはやりのアーバンスタイル(都市型)」と薦めると飛びつくそうだ。「デザイナーズハウス」と称されるものに雨漏りが多いことはよく聞く話だが、工期短縮で安上がり、儲かるので笑いが止まらないというのが造る側の本音だ。
狭小敷地でやむを得ない場合にはどうしたらよいか、日経ホームビルダーは的確な技術と材料の選択、つまり熟練した職人の必要性について懇切に説明しているが、組立工しか必要としない量産住宅では雨漏りを覚悟するしかない。
- 新しい家のカタチ
- 「丁寧な仕事に敬意を払う文化」を破壊する人たち
- 純米酒と父と母
- 心の涙で泣く人間
- からだで感じ、からだで考えるならば
- ロボットが造る家
- 妻が喜ぶ家を
- 自足できる家
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- 91歳で建て替える
- ある精神科医の話
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- 色のある屋根
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- 税金は軽くなるとしても
- 松井 修三 プロフィール
- 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
- 1961年中央大学法律学科卒。
- 1972年マツミハウジング株式会社創業。
- 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
- 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
- 現在マツミハウジング(株)相談役
- 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)