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松井修三の「思ったこと、感じたこと」

現場の良心

2015年10月のこと、傾くマンション問題を各テレビ局のワイドショーが競って取り上げていた。

ある番組のコメンテーターが、「杭打ちをあのように偽ったところで、会社は儲けにはならない。社長さんが言っていたように、一人の技術者が悪意でやったことだろう」と、責任を一社員に押し付け、儲かりもしないことを旭化成建材がやるとは思えないというような発言をしていた。

それを聞いてあきれ返ってしまった。


<現場は、経営の「映し鏡」であり、競争の縮図である。

その企業の「体質」が最も顕著に現れるのが現場である。

戦略の実行を担い、価値創造の当事者である現場の品質こそが、企業の「体質といっても過言ではないだろう。>


遠藤 功著「現場論」(東洋経済)を引くまでもなく、この認識は、仕事の常識でありモラルである。私は創業以来、社員・大工・職人・業者に対して、とにかく正直であって欲しいと言い続けてきている。正直さは、バカが付くほどがいい。


仮に、刑事的に個人の仕業だったと判明しても、経営陣の責任は厳しく追及されなければならない。

「家づくりの真実を問う」という副題の拙著<『いい家』が欲しい。>には、「現場の良心」という項がある。住む人のための器づくりという点で、マンションも住宅も変わりはない。ぜひお読みいただきたい。


「現場の良心」

家づくりの成否は、どのような造り手や工法を選ぼうと現場の良心に大きく左右されます。それを経験上熟知している大手ハウスメーカーは、大工や職人の良心だけでなく、存在そのものを不要とする組み立て方式の徹底化を図っています。

一方、住み心地を究める家づくりは、その土地、その家族に合うように手づくりされるので、「組み立て、据え置き、貼り付けて、一丁上がり」という具合にはいきません。一軒の家ができ上がるまでには、どんなに設計図面がしっかりしていても、一手余分にかけるべきか否かを迷う場合が何十回となくあるものです。そのとき、かけるべき手をしっかりとかけ、手を尽くして造るには大工・職人の技術と経験と良心が絶対に必要です。

住まいづくりは、子を生み、育てるのと同じです。住む人の一生の幸せがかかっているのです。一棟、一棟に手を合わせ、心をこめて造らなければなりません。その覚悟を誇りとして、家づくりに携わるすべての人が共有しない限り、「いい家」はできないのです。

覚悟や良心というものは、数が増えれば増えただけ稀薄になり粗末になっていかざるを得ないものなのです。

現場では、建主の顔も知らない、知ろうともしない組立工と下請け業者が、ただひたすら工期に追いまくられ、ノルマだけを気にした工事をするようになるのはごく当然の成り行きです。家づくりとは名ばかりで、箱づくりです。カタログがやたらと豪華になり、美辞麗句で飾り立てて、箱づくりをいかにして家づくりに見せるかを競い合うことになります。

松井修三プロフィール
  • 松井 修三 プロフィール
  • 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
  • 1961年中央大学法律学科卒。
  • 1972年マツミハウジング株式会社創業。
  • 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
  • 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
  • 現在マツミハウジング(株)相談役
  • 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)