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2007年4月10日
地球温暖化 プラス2度に抑えたい
「熱が出ますよ。体の節々が痛くなってくるはずです」
私たちの地球は、お医者さんから、そんな診断を受けた。世界の専門家でつくる「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告だ。
「熱が出ます」は、2月に出た第1作業部会の見立て。最近の地球温暖化は人間の営みによるものだとほぼ断定し、今世紀末の気温が20世紀よりも1.8〜4度ほど高くなると予測した。
そのうえに、今回、第2作業部会が温暖化の影響を見積もる報告で、地球のもろさを浮かび上がらせた。文字通り、自然と人間社会の「節々に痛みが出るだろう」という診断だった。
報告が描きだした温暖化の影響は、食糧、水、人間の健康、自然の生態系など多岐に及ぶ。地球の平均気温が高くなるにつれて現れる症状は、こうだ。
深刻な水不足に直面する人々は数億人以上の規模になる。穀物生産の低下が、とくに赤道を中心とした低緯度地域で起こる。人間の健康に与える影響では、栄養失調、感染症などが増え、生物界でも種が絶滅するリスクが高まる。
温暖化の影響は、そう単純ではないらしい。中高緯度地域での穀物生産は、あるところまでは増えていくが、上昇幅が大きくなると生産が落ちるところも出てくる。わずかな気温のぶれで、食糧供給が大きく揺れ動くことになる。
病気を媒介する生物の生息地域も変わる。医療面で、これまで不慣れだった感染症の予防や治療を求められる地域が増えそうだ。
温暖化は、ただ異常気象を招くだけではない。食糧生産や感染症の地図をも変えるということだ。その対応だけでも大きなコストがかかるだろう。だからこそ、政府も産業界も本気で取り組まなくてはならない。
この報告は、気温上昇が90年と比べて2〜3度以上であれば、すべての地域で悪影響が出るか経済的な負担が増える可能性が非常に高い、という見方を打ち出した。
第1作業部会の報告では、私たちの選択しだいで気温上昇の幅は大きくもなるし、小さくもなる、ということだった。石油などに依存した高成長路線を突き進めば4度程度になるが、経済構造を急速に変えて物質至上主義を改め、クリーンで資源節約型の技術を取り入れれば1.8度ほどで済むとされた。
2つの報告を合わせて考えると、気温上昇を2度程度で抑えることの意味の大きさが見えてくる。
欧州連合(EU)は、工業化以前と比べた気温の上昇幅を2度以内に抑えるとの目標をすでに掲げている。これは、90年との比較なら1.4度程度の上昇に相当するので、かなり厳しい数字だ。
私たちも「せめて2度の上昇にとどめる」との覚悟を決めて、社会や産業の構造を再設計するときではないか。
〔朝日新聞社説〕 2007年(平成19年)4月7日