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2005年9月4日

ホリエモンの予言 61年目の出発

 戦後を告げたのはラジオである。60年前の8月、昭和天皇の声で国民は敗戦を知った。
 ラジオの役割はテレビの登場で小さくなった。広告費で見ると、テレビ、新聞、雑誌に次ぐ4位という時代が続いた。
 昨年、この順位に異変が起きる。8年間で113倍に急増したネットの広告費に、ラジオは抜かれたのだ。
 今年2月、新興ネット企業のライブドアが、ラジオ局のニッポン放送の株を大量に取得したことは、ネットの急成長ぶりを多くの人に印象づけた。

 ホリエモンこと堀江貴文ライブドア社長は、海外特派員協会でこう語った。「ネットと放送の融合を加速させる」
 この予言は現実味を増しつつある。
 大量の情報を流せるブロードバンドが普及し、映画やスポーツ中継などをネットで流せる時代である。テレビニュースの動画はすでに無料で流れている。来春には携帯電話向けの地上デジタル放送も実現する。
 放送局の強みは、魅力ある番組をつくる能力だ。これを独占的にもち続ける限り、ネットとは共存できるだろう。
 しかし、実際の番組づくりのノウハウを蓄積しているのは外部の製作会社だ。人気の高い国際スポーツの放映権も、ネット企業が獲得に動き出している。
 これでは、放送はネットにのみ込まれてしまうのではないか。

 堀江社長は、もうひとつ予言した。「市民が情報を発信する時代になる」というのだ。
 巨大メディアの時代は記者の資質が重視されるが、今後は違う。役所の発表などは通信社から買えばいい。スクープは不要だ。ネット社会では個人がブログなどで発信する。インターネットは世界最大の口コミ網だ。そんな内容である。
 市民からの発信が盛んになるのは悪いことではない。しかし、である。報道の専門集団のいない社会では、だれが情報を発掘し、真偽を見分けるのだろう。
 米国で話題になった物語「EPIC2014」は、こんな近未来を描く。
 米国の情報検索会社とネット通販会社が、登録した個人の好みや職業に合わせて情報を送る会社をつくった。
 同社のコンピューターは、新聞のニュースサイトやブログなどから情報を抜き出し、個人に合わせて書き換えた記事を送るようになる。便利かもしれないが、悪くすると、真偽も定かでない、扇情的な内容になる。
 これは空恐ろしい未来ではないか。判断のよりどころにする「羅針盤」がないまま、情報の海だけが広がる。物語の筆者は結末を書いていないが、そんな社会はごめんだ。
 私たちは、何としても人々から信頼されるメディアを目指していきたい。
 敗戦から60年。人も社会も、大きな節目を迎える。ここから日本はどこへ向かうのか、シリーズで考える。


2005年8月11日 朝日新聞 社説より

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