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2005年7月3日
アスベスト 過去が突きつけたもの
一時期、ある作業に携わった人の1割以上が、がんなどで亡くなった。
すさまじい健康被害だ。
大手機械メーカーのクボタが、過去に水道管製造に使ったアスベスト(石綿)で起きたとみられる中皮腫(ちゅうひしゅ)などの発症状況を公表した。
兵庫県の工場では57年から75年にかけて、水道管の強度を上げるために、石綿の中でも発がん性の強い青石綿を使っていた。79年に従業員が石綿じん肺で、86年には中皮腫で死亡したのをはじめ、これまでに78人が石綿の関連疾患で亡くなった。近くの住人5人も中皮腫にかかり、2人が死亡している。
クボタの責任は重いが、被害を公表した姿勢は評価されていい。被害を隠すよりも公表する方が、結果として企業の信頼にもつながるだろう。
天然の繊維状鉱物、石綿は、耐久性や耐火性、電気絶縁性にすぐれている。建物の天井や鉄骨に吹きつけたり屋根や外壁材に混ぜたりと、かつては大量に使われた。中皮腫は石綿を吸い込んでから30〜40年たって発症する。「静かな時限爆弾」とも呼ばれている。
住民への被害が全国に潜在している可能性がある。潜伏期間が長いため、中皮腫の患者は増えると予想されている。過去に石綿を使ったほかの企業も、被害の公表を急いでもらいたい。
厚生労働省や環境省は広範な健康調査を実施し、実態を把握する必要がある。肺付近の膜にできる中皮腫は有効な治療法がなく、発症すれば1、2年で亡くなることが多い。住民被害については救済策も考えなくてはならない。
それにしても、被害がこれほど深刻になったのはなぜなのか。
国際労働機関(ILO)などが70年代初めから石綿の発がん性を指摘していた。日本では、青石綿も白石綿も吹きつけでの使用は75年に禁止された。
しかし、毒性の強い青石綿の使用が全面禁止になったのは95年。白石綿の方も、昨年になって、ようやく使用が原則として禁止された。
危険性の指摘があるのに、それを過小評価して規制を先延ばしにする。その結果、働く人や住民の間にとりかえしのつかない犠牲を生んでしまう。水俣病や薬害エイズで目の当たりにした「行政の不作為」が、アスベストでも繰り返されたのではないか。
石綿を使った操業の実態と規制、健康被害との関係について、詳しい検証が欠かせない。クボタは中皮腫でなくなった従業員について86年から労災認定を申請し、犠牲者の大半は認定されている。旧労働省はこうした事実を知っていたわけだ。なのに住民には知らされなかった。
石綿が使われた建物は、そろそろ耐用年数を迎えている。やがてその多くが建て替えのために解体される。そのとき石綿の粉じんが飛散するおそれがある。
私たちが直面しているのは過去の被害ではなく、いまの問題なのだ。
2005年7月2日 朝日新聞 社説より