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2016年5月27日

健康に配慮、住宅断熱化急げ

 冬に脳卒中、心筋梗塞や肺炎などにより死亡する人の割合を国別に見ると、スペイン、日本など比較的温暖な国の方が、デンマーク、フィンランドといった寒冷な国よりも、死亡増加率が高い。寒さに対する油断があるからで、暖かい所ほど寒く住んでいる。
 国内でも同じことが言える。北海道の人が冬に東京に来ると、「東京は寒い」と言う。北海道では高断熱住宅で暖房も十分なケースが多く、家の中は暖かい。
 最近、住宅と健康に関する研究が進み、高血圧や脳卒中などの疾患と室温の関係が明らかになってきた。
 高知県檮原町で10年にわたって慶応大の建築学医学研究チームが行った調査では、午前0時に測った室温が18度を下回ると、高血圧、脳卒中とも、統計的に信頼できるレベルで発病が増えることが分かった。室温が18度未満の場合、18度以上に比べ、高血圧発病のリスクは6.7倍にもなった。
 壁に断熱材を入れたり窓を2重ガラスにしたりして断熱性能を高めた高断熱住宅は、断熱対策をとっていない住宅に比べ、冬場の居間の平均室温が約4度高いことが実測調査により明らかにされている。高断熱住宅の普及率が高い地域ほど、冬の死亡率は低い。
 しかし、2012年の国土交通省の調査によると、全国の約5700万戸の住宅のうち、断熱対策をとっていない住宅が39%、36年前の一番古い基準をクリアしているがそれ以降の基準には合致していない住宅が37%、計76%にのぼり、住宅の断熱化は進んでいない。
 住宅の断熱化には、新築では約100万円、既存住宅では300万円かそれ以上の費用がかかる。
 断熱工事にかかる費用を何年で回収できるか計算してみた。新築住宅で暖房を多く使う場合、光熱費が減った分を考えると回収に約30年かかる。しかしさまざまな病気が改善され、医療費が安くすんだり、行政負担が軽減されたりすることを考えると、費用は11年で回収できるという試算もある。
 5月13日に政府が閣議決定した「地球温暖化対策計画」では、2020年までに中古住宅の省エネ改修件数を倍増させるとしているが、現実は容易ではない。
 日本では、健康面への効果は注目されてこなかったが、政府や自治体は「あなた自身の健康改善のため」として国民ひとりひとりに訴え、補助や減税措置などを工夫し、住宅断熱化を加速させるべきではないか。
 英国の保健省公衆衛生庁は、健康と社会福祉法に基づく指針で室内の推奨温度を定めている。最低でも居間で21度、寝室で18度あることが推奨されている。
 日本でもこうした室温指針が必要だ。しかし、「室温と健康の関係を裏付けるデータが少ない」という指摘もあり、実現していない。現在、私が責任者になって、断熱改修を行った住宅に住む4000人を対象に調査を進めている。
 断熱化すれば、夏に外の暑さを遮断する効果もある。地球温暖化対策と同時に、健康で快適な生活を実現できれば、と思う。


      2016年5月27日 読売新聞

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