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2013年2月24日
ぜんそくの敵、脳梗塞も心配
深刻な中国の大気汚染が報じられ、越境汚染への関心が高まっている。西よりの風が強くなる春先以降は大陸から黄砂が飛んでくるようになる。汚染物質を付着して飛来するケースも多く、子どものぜんそくやアレルギーが悪化し、脳梗塞の引き金になると指摘する専門家もいる。これといった対策はなく、花粉症のように日ごろから吸い込まないよう注意するしかない。
中央アジアのタクラマカン砂漠やゴビ砂漠、黄土高原では、春先に強風で大量の砂ぼこりが舞い上がり、上空の偏西風に乗って運ばれる。これが黄砂だ。2月下旬〜5月上旬に発生し、日本では関西以西を中心に1年に30日ほど観測される。
■PM2.5も飛来
粒径が約4マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルで、スギ花粉の10分の1ほどしかなく、肺の奥まで入りやすい。同2.5マイクロメートル以下の微粒子状物質(PM2.5)も含んでおり、一部は血管にも入り込む。粒子に付着した様々な微生物や大気汚染物質が肺などの炎症を引き起こす。台湾や韓国では、黄砂が多いときに心臓や肺の病気で死亡する人が増えるという報告がある。
日本で健康影響がわかってきたのが、ぜんそくなど肺の病気だ。京都大学の金谷久美子医師らは富山大学と共同で、黄砂が小児ぜんそくで入院するリスク(危険性)を約2倍悪化させるという疫学調査の結果を公表している。2005〜09年の2〜4月にかけて、富山県内の基幹8病院に入院した1〜15歳の620人を調べ、黄砂と入院との関係を比較した。
その結果、黄砂が観測されてから1週間は、ぜんそくの発作を起こすリスクが普段の日の1.8倍と高い状態が続くことがわかった。小学生に限ると3倍を超した。男子は小中学生を通して発作を起こしやすく、リスクが2.3倍になった。金谷医師は「小学生や男子生徒は外で遊ぶ機会が多く、黄砂を吸いこんで影響を受けやすいのではないか」と推測する。国立環境研究所が福岡県で実施した調査でも、似た結果が出ている。
血管に入った黄砂による炎症反応で内側の塊がはがれて脳の血管が詰まり梗塞を起こすリスクも懸念されている。九州大学の北園孝成教授らは、福岡県の主要病院に救急搬送される脳梗塞患者6352人について調査。黄砂が観測されてから3日間に搬送される急患は普段の時期に比べて7.5%増えた。言語障害や手足のまひなどを起こす重症タイプに限ると、リスクは1.5倍になった。
大分県立看護科学大学の市瀬孝道教授はアレルギーが悪化する危険性を指摘する。マウスを使った実験で確かめている。「黄砂そのものはアレルギーの原因ではないが、含有するシリカや微生物が過剰な免疫反応を招いているのではないか」と推測する。
■予報をチェック
本格的な飛来シーズンにどう備えるのか。視界が10キロメートル以下になりそうな場合、各地の気象台から「黄砂に関する気象情報」が発表される。気象庁のホームページ(http://www.jma.go.jp/jp/kosafcst/) にも黄砂予測が掲載される。こうした情報に注意を払いたい。
京大の金谷医師は「黄砂ができるだけ室内に入らないようにすることが大切だ」と助言する。黄砂に関する気象情報が発表されたときは、まず窓を開け放つのは避ける。空気清浄機も有効だという。洗濯物を外に干さないことも重要だ。外へ干した場合はきちんと払って取り込む。
視界が5キロメートル以下と、黄砂が大量に舞っているときは注意が必要だ。高血圧や肺の病気、アレルギーなどにかかっている人は外出をできるだけ控え、屋外の運動も避けたほうがよい。目安は車などの表面にうっすらと黄砂が付着する時だ。
健康な人はそれほど気にする必要はないが、外出するときにはマスクを着用したい。飛散が多いときは目をこすると角膜を傷つけることがあるため、帰宅したら目を洗う。福岡市はこうした対応はPM2.5の対策にも役立つと市民に説明している。
日差しが強まると、大陸から飛来した汚染物質によって、光化学スモッグが発生するようになる。黄砂とスモッグの複合作用で健康被害が出ることも予想される。自治体が出す注意報にも気を付けたい。(川口健史)
2013年2月24日 日本経済新聞