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2011年6月3日

自然エネルギーの課題

 福島第一原子力発電所の事故で、太陽光など再生可能エネルギーへの期待が高まっています。推進することに異論はありませんが、普及が進まなかった背景には、様々な課題があることも確かです。

 一つは、自然環境との共存の難しさです。例えば、水力発電と地熱発電は純国産エネルギーで、発電時に二酸化炭素も出しません。渇水を除けば、天候にも左右されにくい安定的な電源ですが、自然環境問題が立ちはだかります。

 水力発電は立地可能な「包蔵水力」のうち、電力量で7割、地点数で4割が開発済みです。今後新規立地できるのは奥地の小規模な発電所が多く、開発コストがかかり、ダム建設に反対もあります。それどころか、河川に清流を取り戻そうと始まった放流によって、既存発電所の発電量が減っているのが実態です。

 地熱発電も火山国・日本にとって潜在力の高いエネルギーですが、150度以上の地熱資源のうち、8割強が国立公園や国定公園の特別保護地区・特別地域にあり、開発が難しい状況です。しかも、多くが温泉地の近くにあり、温泉事業者の理解も取り付けなければなりません。

 このほか風力発電も、風向きが変わりやすい日本では適地が限られるため、その多くで立地が進み、国立公園などが残るだけと言います。低周波音が問題になっているほか、野鳥が風車に衝突するのをどう考えるかも問題です。

 もう一つは、太陽光発電や風力発電など天候次第で変動する電力を電力網に取り込む際のコストの問題です。

 電力は原則ためておけないので、普通は需要量に応じ発電量(出力)を調節しています。しかし、一般家庭の太陽光発電の出力を調節するのは実際は難しく、太陽光発電の出力が設置場所の消費電力を上回ると、余剰電力が電力網に流れ込み、電圧が上昇するなど、電力の質が落ちます。質を維持するには、蓄電池や電圧調整装置の設置など電力網の強化策が必要で、コストは総額4.6兆〜6.7兆円に上るとの試算もあります。

 再生可能エネルギーを増やすには、自然環境やコストの課題と向き合い、関係者を説得する覚悟が求められます。

 電力の17%を再生可能エネルギーで賄うドイツがよく引き合いに出されますが、福島の事故で、原発7基を一時停止した結果、電力の純輸入国になりました。輸入先は電力の74%を原発で賄うフランスなどで、脱原発が隣国の原発に支えられている構図です。

 エネルギー政策は重要な課題です。それだけに、一時の熱にうなされず、皆で冷静に考えてみたいと思います。  編集委員 安部 順一


平成23年5月22日 読売新聞 朝刊

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