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2010年5月22日

ほどほど健康術 身近に潜むがんの原因

 がんの原因は、ほとんどが生活空間にある。身近で意外ながんの原因を知っておこう。
 発がん物質という言葉が昔からあった。しかし、日本では、何が発がん性物質なのか、明確な説明がされていない。
 米国の政府機関は、54の物質や事象を、がんの原因として公表している。動物実験だけでなく、実際に人間でがんが発生することを示すエビデンスも一緒で、説得力がある。
 少し前に話題となったアスベストもその一つ。1960年から90年ごろに建てられた公共施設、集合住宅などで建築材料として使われている可能性が高い。空中に漂う性質があるため、居住空間での除去作業はやらないほうがいい。
 自動車の排ガスにも多数の発がん物質が含まれている。幹線道路の近くに住む人や車の運転を長時間する人に、がんが多いというデータがある。
 大気汚染の意外な伏兵も分かってきた。空中に浮遊する、目に見えない「超微細な粉じん」が肺がんの原因になる。たとえば自動車が通り過ぎると粉じんが舞い上がるが、これも問題だ。せっかくのエコカーも、健康対策にはなっていない。車に頼らないライフスタイルを考えていく必要がある。
 米国のある都市で実施された大規模調査によれば、家の外で働く人は、中にいる人よりも肺がんになりやすい。都会の空気は、家の中より汚染されている。
 家の中にも危険はある。ベビーパウダー、各種スプレー、煙、すす、日曜大工で生ずる木くずなどが、がんの原因になる。
 ベビーパウダーは発がん性が問題になったことがある。タルクという成分に疑いがかけられたが、その後の研究で発がん物質でないことが判明した。しかし、超微細な粉じんに変わりはない。
 身近にある最大の発がん物質はたばこの煙だ。4000もの化学物質を含み、うち50に発がん性がある。肺がんの8割はたばこが原因。食道がん、胃がんなどの原因にもなっている。
 世界保健機関(WHO)は吸っている人の半数はこれで命を落とすことになるとしている。日本の喫煙率は、先進国中、トップだ。
 せめて建物、家の中だけでも、空気を徹底的にクリーンにしよう。がん対策に「ほどほど」はない。
 (新潟大学教授 岡田正彦)


2010.5.16 日経新聞

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