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2007年10月15日
二重の空調 天平の知恵 倉と唐櫃 湿度に安定感 毎秋の点検「曝涼」も
正倉院というと、三角形の長細いヒノキ材を井げた状に組んで壁にした校倉造りで知られるが、校倉は北倉と南倉だけで、中倉は板壁。
かつては、校倉の壁が気温の変化によって収縮、夏には隙間が出て倉の中の湿気を吐き出し、冬になると隙間がなくなり寒気が中に入るのを防ぐ、と言われてきた。しかし、これは俗説で、実際に壁が開いたり、閉まったりはしない。
では、なにが宝物を1200年以上も守り続けてきたのか。
宮内庁正倉院事務所は1999年から、外気と倉の内側、宝物を保存するスギの唐櫃(からびつ)の内部について温度と湿度を測定している。その結果、倉の内部は外気に比べて、温度や湿度の変動が少なく、唐櫃の内部はさらに安定していたことが判明した。
木材には湿度の調整能力があることから、校倉造りとは関係なく、木造である正倉の建物全体が温度と湿度を調整していた上に、櫃の中に宝物をしまうことで「二重」の空調機能が働いていたのである。
また、閉鎖された場所に保存し続けるのではなく、定期的に、空気にあててカビや虫を防ぎ、異常がないか点検する「曝涼(ばくりょう)」という作業が奈良時代から行われてきたことも重要だった。現在でも、この伝統を引き継ぎ、毎年10月から約2か月間は宝庫が開かれ、慎重に点検が行われている。
宝物が現在まで守られてきたのは、幸い戦禍や落雷による火災を免れただけでなく、先人たちの保存に対する知恵とたゆまぬ努力があったからと言える。
〔読売新聞〕2007年(平成19年)10月11日