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2006年2月25日

住宅耐震化 小さな補強が命を救う

 来るべき大地震に備えて、いま最も力をいれなければならないことは何か。防災に携わる人たちの多くが「古い木造住宅の耐震化だ」と口をそろえる。

 95年の阪神大震災では、倒壊した建物や家具に押しつぶされて亡くなった人が犠牲者の8割を占めた。壊れた建物の多くが古い木造住宅だった。

 何よりも建物の耐震化に取り組まなければならない。それが阪神大震災の教訓であり、その年のうちに「耐震改修促進法」を制定した理由でもあった。

 ところが、肝心の耐震化が思うように進んでいない。国土交通省の推計によれば、強い地震に耐えられない住宅はいまだに全体の4分の1にあたる1千万戸もある。ほとんどが81年の新耐震基準の前に建てられた木造住宅である。

 新しい丈夫な住宅への建て替えが毎年40万戸のペースで進んでいるものの、古い住宅の耐震補強は年に5万戸ほどしかされていないのが実情だ。

 耐震診断と補強に補助金を出す自治体は増えてきたのに、なぜ耐震化が進まないのか。理由の一つは、木造住宅を対象にした助成制度が通常、震度5でも壊れない強度1以上にすることを条件にしており、多額の費用がかかるからだ。

 東海地震に備えて耐震化を進めている静岡県によると、1戸あたり平均で170万円ほどになる。「負担しきれない」という人が多いのも無理はない。

 耐震化を加速するためには、こうした現実を踏まえて、国と自治体がもっと柔軟な政策に転換する必要がある。

 その意味で注目されるのは、東京都墨田区の試みだ。墨田区は今年1月から「耐震強度1以上」という条件を外し、簡易な補強工事にも補助金を出す制度を始めた。原則として費用の2分の1、25万円まで補助する。

 住宅の弱い部分に柱や筋交いを入れて、とりあえず補強する。十分とは言えないが、何もしないよりはるかにいい。「そのくらいでできるなら」と耐震の相談に訪れる住民が急増したという。

 小さな補強の積み重ねが多くの命を救うことにつながるかもしれない。こうした試みをもっと広げていきたい。

 行政の助成制度にも増して重要なのが住民自身の取り組みだ。

 神奈川県平塚市では、住民団体が工務店などと手を携えて耐震補強の推進協議会をつくった。耐震診断から補強工事、その事後評価まですべてがガラス張りだ。新しい工法まで考え出した。

 耐震を口実に詐欺まがいの工事をする悪質な業者が後を絶たない。こうした業者を追い出すには、平塚のように住民自身の手で信頼できる態勢をつくりあげるのが最も効果的だ。

 中央防災会議は昨年、建物の耐震化を「国家的緊急の課題」と位置づけ、公共施設や住宅の耐震化率を10年後に9割にする目標を打ち出した。

 その目標の達成を図るとともに、新しい試みもしっかり後押ししたい。


掲載:朝日新聞 2006年2月22日 社説

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