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2020年8月4日
希望と不安のテレワーク
コロナ禍に背中を押され、さくらインターネットの田中邦裕社長は念願だった那覇暮らしを4月から始めた。賃貸マンションに夫婦2人で住み、そこからテレワークで従業員650人の東証1部上場企業を指揮する。那覇移住後に主要事業拠点の東京と大阪に出向いたのは、6月末の株主総会を含めて3、4回だが、「経営や意思疎通に支障はない」という。
通勤や移動時間のない分、生産性は高まり、平日でも趣味のダイビングを楽しめる。社長だけでなく、全社員が今も原則テレワークを続け、軽井沢や多摩の奥地に引越しする社員も現れた。「満員電車に乗らなくて済むなどいいことがたくさんあった。コロナが一服しても、そのメリットを手放す気はない」と田中社長はいう。
これがテレワークの理想像とすれば、他方で負の側面も浮かび上がった。現時点で明確になったマイナスは2つあり、一つは(田中社長の感想とは正反対の)生産性の低下、もう一つは働く人の不安の増大だ。
前者については6月の内閣府の調査で「仕事の効率が上がった」と答えたテレワーク経験者が9.7%だったのに対し、「下がった」は47.7%に及んだ。ほかの調査でも同様の結果が出ており、これが緊急事態宣言解除後にオフィス回帰が急速に進んだ理由である。
背景にあるのは。「コロナによって突然余儀なくされたテレワーク」による準備不足だろう。テレワーク研究で有名な米スタンフォード大のニコラス・ブルーム教授は生産性の足を引っ張る最大の要因は「子供」だという。
「うちにも4歳の男の子がいて、パパが家にいると遊んでほしくて書斎に乱入してくる。これは生産性の大きな妨げ」と教授はいう。ほかに「自室がなく家族共用の食卓で仕事をする」「通信状態が悪い」といった要因も大きく、家で働くための環境整備がテレワークの成果を引き出す前提条件であることがわかる。
「不安」については、職場における基盤が弱い若年層がより強く感じているのが特徴的だ。例えばパーソナル総合研究所の調査によると、見えない場所で仕事をするので「上司から公正に評価してもらえるか不安」という人は50代では23%にとどまったのに対し、20代は43%に達した。
全員が会社に来ない一斉テレワークより、来る人と来ない人が混在する「まだらテレワーク」の方が不安を助長するというデータもある。家で一人でいると「出社組と情報格差が広がっているのでは」と疑心暗鬼が生まれるからだ。
パーソナル総研の小林祐児上席主任研究員は「孤独感を軽減するカギは上司の観察力」と指摘する。ときにプライベートな領域まで踏み込み、「長男の○○君の学校はもう始まった?」といった各人の個別状況に応じた問いかけが独りぼっち感を癒すのだ。
コロナによるテレワークの機運が一過性で終わるのは、やはり惜しい。日本経済の直面する人手不足やテレワーク合い符バランスの改善などの課題解決にテレワークは威力を発揮する。マイナス面を抑える取り組みが企業には求められる。