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2016年9月30日
空室率悪化 泣くオーナー
人口減の日本でなぜか賃貸アパートが増えている。2015年の相続税増税でアパート経営が節税策として注目され、それを追い風に建設請負業者が売り込みをかけているからだ。家賃保証などでオーナーの負担は軽いとして受注を伸ばすが、需給は崩れ、空室率は過去最悪の水準に達する。目算が狂ったオーナーは悲鳴を上げる。
「空室リスクは覚悟していたけど、こんなにも早く出るなんて」。千葉県白井市の男性公務員は肩を落とす。相続した土地にアパートを12年に建設した。2階建てで総戸数は8戸。今年で築4年、最寄駅から徒歩10分と条件は悪くない。だが、今年は一時、5戸が空室になった。
母親が亡くなるとほどなく大手の建設請負業者が訪れ、相続した土地にアパートを勧めてきた。9千万という建設費にためらったが、担当者は「当社が全室借り上げ、入居者も集めます」と提案書を差し出した。
試算では、家賃収入は年660万円。業者の取り分を差し引いて600万円強の収入が35年間続くという。銀行からの借り入れは必要だが、資産で示された月30万円程度の返済には十分。地銀からの融資も決まり、建設に踏み切った。
現実は甘くなかった。当初こそ業者から月50万円が振り込まれたが、今は40万円弱。家賃収入は空室率によって最低保証額まで引き下げられる契約だからだ。今後、定期的な契約更新で金額が変わる可能性も残る。
住居人口の少ない土地でのアパート経営に無理はなかったか。オーナーの妻は後悔の念を抱きながら敷地の草むしりをする。専門業者に任せるお金はないからだ。
国土交通省によると、7月の住宅着工の伸び率は持ち家が前年比6.0%だったのに対しアパートなど貸家は11.1%。大幅増の背景にあるのは相続税対策だ。更地にしておくより借金をしてアパートを経営した方が税金が安く済むからだ。
その波に乗ったのがサブリースと家賃保証を売り物にするアパート建設請負業者だ。建設だけでなく、一括借り上げして入居者を集め、手数料を除いた家賃をオーナーに支払う。こんな提案で、大東建託やレオパレス21といった大手が続々とアパートを建設している。大東建託の16年3月期の売上高は8期連続で過去最高を更新した。
業者が活況に沸く一方、トラブルが発生している。「空室を理由に提案通りの家賃が支払われていない」。不動産コンサルティングの青山財産ネットワークスの高田吉孝執行役員のもとには、こうした相談が月に数件寄せられる。
国交省は9月から業者に対し契約時には、将来の家賃が変動する可能性があると説明するよう求め始めた。業者側は「契約書面ではリスク要因を強調している」(レオパレス21)、「賃料改定がある得ることを説明した上で、本人の署名捺印を頂いている」(大東建託)と適切に対応していると主張する。
言い分が分かれる中、アパートの需給は悪化を続ける。不動産調査会社のタス(東京・中央)によると首都圏の空室率は15年ごろから急上昇。最も高い神奈川県は7月に36.66%と過去最悪を更新し、16カ月連続で悪化した。適正水準の上限30%を大幅に上回る。
無秩序なアパート建設に行政も危機感を抱く。埼玉県羽生市では1年ほど前にアパートの建設地域を制限した。しかし、局地的に制限しても焼け石に水だ。首都圏全体でみた場合は「当面は空室率は改善しないだろう」(タスの藤井和之氏)。
空室増のあおりを受ける不動産管理会社は対策を余儀なくされている。
6万戸の賃貸住宅を管理する東急住宅リース(東京・新宿)。空室が増えれば収入減につながる。そこで7月からオーナーに従来より3割程度安く改修できる新提案を始めた。大学再編で居住学生が減少する相模原市の管理会社は入居者専用の食堂設置をオーナーに呼びかける。
空室率が悪化してもなお増え続けるアパート。建設業者にとって数少ない「成長分野」を狙って、住友林業など戸建て住宅メーカーもアパート事業に力を入れる。
相続税対策を狙うオーナー、アパートの建設代を得たい業者。空室が発生した場合、誰が責任をとるのか。直視しないまま、今もアパートは増え続ける。
2016年9月30日 日本経済新聞