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2015年6月28日
石綿むき出し、しかれた箝口令
大手機械メーカー・クボタの旧工場(兵庫県尼崎市)周辺で住民被害が発覚した「クボタ・ショック」から29日で10年。老朽化した建物の解体現場で、ずさんな工事によるアスベスト(石綿)の飛散事故が絶えない。石綿を用いた疑いがある建物は、民間だけで推計280万棟。その解体がこれからピークに向かう。五輪を控える東京では他に先駆け解体が進み、周辺住民が石綿を吸うリスクが高まっている。
一昨年秋、関西の住宅に囲まれた町工場を更地にする解体工事があった。請負会社の関係者である男性は、そこにがれきからむき出しになった茶色の吹き付け材を見た。石綿だと直感した。分析機関に持ち込むと、毒性の強い茶石綿が50%以上の高濃度で含まれていた。男性は現場の担当者に経緯を問うた。
元請けの産廃会社は、作業を下請けに委ねていた。下請け業者は石綿の有無を確認せず解体を始め、重機で天井や壁を壊すと石綿がぼろぼろ落ちてきた。「箝口令がしかれた」と担当者は言った。
すでに建物の半分以上を壊していた。だが報告を受けた産廃会社は手を打たなかった。「万が一、情報知っている人間増やしたら、なんかのことで行政や周囲の耳に入ってしまったら。もう完全に公害ですもん。飛散してもうてるから。会社、もたへん。」
石綿は「静かな時限爆弾」といわれる。髪の毛の5000分の1という極細の繊維状鉱物を吸い込むと、数十年の潜伏期間を経て石綿特有のガン「中皮腫」や肺がんを引き起こす。
周辺への飛散を防ぐため、建物解体の際は法令に従って危険箇所を頑丈なプラスチックシートで密閉し、集じん・排気装置を設置する。作業者は防護服と電動ファン付きマスクを着ける。だがこの現場では一切の作業が省かれ、周辺住民には何も知らされなかった。
(以下省略)
2015年6月28日 朝日新聞