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2013年3月29日
「高級住宅地ほど売りにくい」摩訶不思議
「高級住宅地ほど売りにくい」摩訶不思議
かつては郊外に戸建てのマイホームを構えるのが、都心で働くビジネスマンの夢だった。その郊外の戸建て住宅でいま何が起きているかというと、親から子供への相続に関する問題である。相続する子供はそこに住む気はさらさらないし、だからといって売ろうにも売れないという厄介な事態に陥っているのだ。
三十代、四十代の働きざかりのビジネスマンがどこに住みたいかというと、やはり職場に近い都心部である。片道で一時間半も二時間も電車に乗るのは、まさに通勤地獄で日々の仕事の能率にも支障をきたす。それに子供の教育環境を考えると、学校の選択肢が広がる都心部のほうがいい。だったら、相続を受けた家を売って住宅ローンの繰り上げ返済に充てようと考える子供たちも多いのだが、そこで大きな壁としてたちはだかるのが「建築協定」なのだ。
建築協定は良好な住環境を守るために、建築基準法に上乗せする形で、自主的に設けられた地域独自の建築規制である。原則として地域住民全員の合意、市区町村の認可が必要で、合意した住民は協定を守る義務を負う。協定を結んだ土地を後から取得した人にも、その効力は及ぶ。運用は住民代表(運営委員会)が行い、違反建築に対して、工事差し止め請求 などの法的措置を取ることもある。
協定による制限は、敷地の広さ、建物の階数・高さ、構造、用途など多岐にわたる。家の周りを生垣で囲む、家の外観の色調を統一する、といった取り決めも可能だ。テレビドラマ「金曜日の妻たちへ」の舞台となってバブル期に人気を集めた、東急田園都市線沿線・多摩プラーザ駅近くの新石川二丁目B地区(横浜市) の建築協定の例が別表である(省略)。建物を二階までの戸建て住宅に限ったり、敷地の分割を禁じたりするなど、かなり厳しい規制となっている。
足かせとなる最低面積のしばり
国土交通省の調査によると、二〇〇七年末現在の建築協定は約二八〇〇件に上る。とりわけ、高級住宅地には、建築協定のあるケースが多い。乱開発を防ぎ、住環境にこだわることでブランドイメージを高め、資産価値を保ってきたからである。たとえば、首都圏では深沢(東京都世田谷区)、聖蹟桜ケ丘(同多摩市)、鵠沼(神案川県藤沢市)、近畿圏では千里(大阪府豊中市)、甲陽園(兵庫県西宮市)などに建築協定区域がある。
ところが、皮肉なことに資産価値を保つための建築協定が、相続に際してあだとなってしまう。協定があるために、宅地を売買しにくくなるのだ。特に足かせとなるのが、最低面積のしばりや分割の禁止の規定だ。
バブル期と比べて地価が下がっているとはいえ、高級住宅地である程度まとまった土地だと、どうしても価格が高くなって売りにくい。そこで考えられる手が、土地をいくつかに分けて建売住宅にし、値ごろ感のある価格で売っていく「ミニ開発」である。しかし、「最低敷地面積五〇坪」だったり、分割が禁じられていると、その手が封じられてしまう。
だったら、アパートかミニマンションを建てて“サラリーマン大家さん”になり、賃貸収入を得ようかと考える人も出てくるだろう。しかし、なんとここでも建築協定の壁にぶつかってしまう。「建物は一戸建て個人専用住宅」と決められているケースが少なくないからだ。これから相続について親子で話し合うのなら、自分の土地に建築協定の網がかかっているのかをチェックしておきたい。
なお、建築協定に似た地域独自の建築規制として、都市計画法に基づく「地区計画」という制度もあるので要注意だ。建築協定と違って、市区町村が都市計画の一環として運用するため、住民の合意は関係なく、対象の土地すべてに適用され、規制に違反した場合は是正を命じられる。 地区計画の例としては、新百合ケ丘(川崎市)や光が丘(東京都練馬区)などが挙げられる。
PRESIDENT 2013年4月15号