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2013年1月10日

式年遷宮

 伊勢神宮は20年に一度、社殿を新しく建て替えてご神体を移す。飛鳥時代の持統天皇の世から1300年以上続く決まり事である。今年はその「式年遷宮」の年。準備がすべて整って、いよいよ神さまが移るのは10月だ。いま境内では工事が仕上げの段階を迎えている。
 ▼建物だけでなく装束や宝物などの道具も新調するそうだ。まっさらな新品に囲まれた清らかな空間は、たしかに神さまの居場所にふさわしい。ところが、そうした神道の精神だけが式年遷宮の理由ではないらしい。伝統の裏側に経済的な意味が隠されている。建築や製品の技術を次の世代に伝えていく制度としての側面だ。
 ▼20年の歳月がたてば、10代だった見習いの職人は30代の棟梁になる。30代の棟梁は50代の後見人になっている。習った技を若者に教え、育った人材を背中から見守る。大きな仕事に生涯で二度たずさわれば、技術は綿々と引き継がれていくだろう。20年周期で開くタイムカプセルに守られて、古代が現代につながっている。
 ▼ギリシャ神殿は2千年以上も建ち続けるが、同じ建築をつくれる人はもういない。自分の会社に当てはめて考えるとどうだろう。20歳の差がある世代と一緒に汗をかき、伝え、学ぶ機会はあるだろうか。気がつけば年配者ばかりの職場では、築いてきた価値の伝承は途切れてしまう。未来へつなぐ企業社会であってほしい。
           2013年1月10日 日経新聞 春秋

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